ROOT

Interview [R:ROOT / K:KIM]

「彼らの技術に新たな要素をミックスさせる」 R:それでは、北京と上海の街の違いをどのようにご覧になっていますか?北京に移り住もうとは思わないですか?

K:思いませんね。北京は、上海よりもいろんな面でまだまだ不便ですからね。また、北京は政治の街でもありますし、あまり好きではありません。ただ、カルチャーでいえば、上海は商業的すぎるので、北京の方が楽しいかな。ですので、時々行って北京のカルチャーに触れるというのがいいですね。私は、上海生まれですが、自分自身、上海人らしいとは思わないんですよね。北と南の人間の中間にいる感じといえばいいでしょうか。典型的な上海人とは、自分の生活や家のことを非常に重要視しているように思います。自分の生活外のことに、あまり興味がないように思いますね。

R:ご家族は、KIMさんのお仕事を理解してくれていますか?

K:せっかく安定した会社に就職したのに、辞めて上海以外の都市で生活をしていた私のことをいまいち理解できないようですね。せっかく上海に家があるのに、「福建で生活をするなんて」と思っていたようです。

R: KIMさんは「八○後」(*)の世代ですが、自分たちの世代をどのようにご覧になっていますか?よく「わがまま」とか「親に頼り過ぎ」などと形容されがちですが。

K:中国人の一般的な考えとして、自分の家を持つことを非常に重要視するんです。上海の大部分の八○後の世代の給料だけでは、家や車は買えませんからね。そうなると、自然と親に頼ることになるんです。ただ、私自身は彼らとは全然違って、家なんてどうでもいいんです。家を買うお金があれば、もっと意味のあることに費やしたいです。旅行に行ったり、外のものにどんどん触れたいと思ってしまいますね。

R:張達さん(ROOT.12参照)とは、プライベートでも仲がいいと伺っていますが、1967年生まれの張達さんとはジェネレーションギャップなどは感じませんか?

K:特にギャップなどを感じることはありませんが、彼らの世代が受けた教育や育った環境とはやはり違いを感じることはありますね。張達さんは、精神年齢が若いので、色々と分かり合える部分が多々あるのですが、彼の選択は非常に保守的ですね。また、デザイナーという職業から我々の違いを見てみると、私は、今までにないとか、かっこいいと思ってもらえるような外観重視でデザインしてきました。一方、張達さんは、デザインの内側、例えば、実用性を重視したり、染料や素材にエコの要素を取り上げたりといった面を重視しているように思うんです。

R:今後、何か新たに挑戦してみたいことはありますか?

K:ちょうど、張達さんと、生活が苦しい中国の子供たちに何かできないかって話しているんです。以前、ネット上で呼びかけて、彼らに売れ残った私の靴をプレゼントしたこともあります。ただ、なかには、「かっこいい靴を彼らにプレゼントするより、売ったお金を寄付して、彼らに必要なものを買ってもらう方が意義があるんじゃないか」と言う人もいたんです。確かに、彼らの言うことも分かります。多くの人が、生活困難者はきっと文房具や服が必要に違いないと思っているようですが、生活困難者を支援している方にお話を伺うと、文房具や服は他からも大量に寄付されるため、逆に余っているそうなんです。でも、皆、靴が足りていないとは思わないんですよね。彼らが履いている靴は、ぼろぼろで底が薄くなっている。生活は厳しいけど、彼らもやはり美しいものを欲しているんです。他人が履いた、古い靴ばかりでは駄目なんです。ですから、彼らにどのようにして私のデザインした靴を提供できるか、張達さんと企画中です。

R:例えば、どの地域の子供たちですか?

K:貴州省や雲南省などの田舎ですね。まだ、現地を訪れたことがないので、張達さんと一緒に行って、実際に現状を見てこようと思っています。

R:それでは、KIMさんの靴作りのお話に戻りたいのですが、デザインのアイディアはどこから涌いてくるのでしょうか?

K:私はデザインする際、工場にはどのような技術があるのか、彼らはどのような靴が作れるのかをまず理解するんです。そして、そこから何か新しいものが生み出せないかを考える。彼らの技術に新たな要素をミックスさせてデザインをする。ですから、何かテーマを設定するとかストーリーを考えるというわけではないんです。

R:今後は服のデザインも考えていらっしゃるようですが、具体的にどのようなイメージで創作していく予定ですか?

K:今、中国の「漢服」(*)を調べているんですが、漢服は、清朝時代に廃れてしまうんですね。ただ、最近、中国人のなかにも、漢服を見直そうと呼びかけている方もいるんです。私自身も、服のデザインの中に漢服の要素を取り入れられたらと思っています。ただ、当時と今とでは、ライフスタイルが大きく違いますから、直接取り入れるのではなく、基本的な部分は残して実用的で現代社会に合うデザインにしたいと思っています。

R:今年4月に東京に遊びに行ったそうですが、東京の印象はいかがですか?

K:東京の人たちはたくさんストレスを抱えているんだろうなと思いました。ただ、一人の外国人から見た東京は、些細な部分にも配慮がされているということですね。タクシー料金は上海の方が安いですけど、物価は上海とあまり変わらないのかなと思いましたね。

R:最後に、10年後の中国はどのようになっていると思いますか?

K:中国はあらゆる物事がハイスピードで進んでいます。10年前、中国が今のようになるとは想像がつかなかったと同じで、10年後も想像できないですね。

*八○後:1980年代生まれの総称
*漢服:漢民族の伝統的な民族衣装。
(インタビュー:2012年8月7日)


KIMに影響を与えた人物


Raf Shimons ― ベルギーのファッションデザイナー。 08spring/summerメンズコレクションで発表されたのは、これまでの彼のデザインとは全く違っていました。宇宙的な感じがしましたね。靴なんて、スキー靴をアレンジしたような感じで、ただただ驚きました。その時、自分のデザインにも、もっと斬新な要素を取り入れたいと思いましたね。



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